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伝説の勝負師たち

【Vol.3】 ウォーレン・バフェット

アメリカの経済誌『フォーブス』が、今年3月に2006年度の世界長者番付を発表した。1位は巨人マイクロソフト社のビル・ゲイツ。そして、2位が「オマハの賢人」と称される投資家、ウォーレン・バフェットだ。「世界最強の投資家」として、彼の投資の法則はあらゆる層に教科書とされている。今回はそのバフェットの考え方に触れる旅に出てみよう。
オマハの賢人
バフェット率いるバークシャー・ハサウィエ社のある、ネブラスカ州オマハ。農業の盛んな郊外都市だが、地の利がよく、様々な業界の拠点が置かれている 「最強の投資家」、「世界No.1の投資家」など、バフェットはさまざまな敬称で呼ばれる大投資家である。その活動拠点は金融のメッカウォールストリートから遠く離れた、アメリカ中部のネブラスカ州最大の都市、オマハ。アメリカ有数の農業地であり、およそ投資の世界との関連性は見いだしにくい土地柄である。この町にアメリカ中の大物経営者たちが「オマハの賢人」、バフェットにアドバイスをもらうためにわざわざやってくるのだ。

バフェットがCEOを務める「バークシャー・ハザウェイ社」は、ウォールストリートで話題になる企業ではないし、彼自身「GE社」のジャック・ウェルチのような経営者でもない。しかし、大企業のトップたちがバフェットにこれほどまでに注目する理由は、株主の利益を出し続ける投資先の選択や投資方法、また株主と企業のあるべき姿を徹底させる彼の姿勢を評価しているからだ。

彼の投資対象は、長期的な視点で企業を分析した結果、市場の評価額と実際の資産の幅があって割安と感じられる企業の銘柄である。その上、
経営者の姿勢が株主側に向いているかという点を重視しているのだ。その考えから、一時期ウォールストリートが踊ったITブームには乗らず、「暴騰でわいた市場は市場ではない」と売買を控えるほどであった。
「ものを言う株主」が選ぶ永久保有銘柄
バフェットは、1951年から本格的に株式投資に乗り出した。最初に購入したのは、保険会社「ガイコ社」の株だ。そして、現在自らがCEOを務める「バークシャー・ハザウェイ社」、「ワシントン・ポスト社」、「コカ・コーラ社」、「ジレット社」、「アメリカン・エキスプレス社」といった名だたる企業が、2004年末時点の彼の会社が投資している主要銘柄とされている。また、「コカ・コーラ社」や「ジレット社」などはバフェットが永久に持ち続けるであろう「永久保有銘柄」として公表され、安定した利益を株主たちにもたらしている。

そんな彼の投資先選びは一見して非常にシンプルである。まず「自分の理解できる事業」であること、「割安感のある銘柄」であること。例えば彼の会社が投資している「コカ・コーラ社」は、バフェットの言葉を借りると「inevitables(必然のもの)」であり、世界最強の消費者ブランドであるという。歴史ある「コカ・コーラ社」はブランド力を維持していながら、1960年代以降、競合の「ペプシコーラ社」に売上げや企業規模では押されていた。しかし、1981年にCEOにゴイエスタ※1が就任すると、早急に体質改善がなされ、本物の世界のブランドへと再生したのである。

ゴイエスタが掲げた方針は「株式会社はオーナー(株主)の利益を高めるために経営する」というものであった。これはバフェットの投資哲学と一致する。実際にバフェットが資本を投下し始めたのは1987年だが、それまでに50年余りも同社の推移を見てきた、という※2 。企業の資産と確実な将来性、そして経営者が信頼できて初めて投資を決定する姿勢を、若い頃から貫いてきたのだ。

バフェットは、常に「マネージャー(経営者)がオーナー(株主)の意識を持つ必要がある」と考え、経営陣の姿勢が株主側に向いている企業にしか投資をしない。もしくは、株主に顔を向けるよう、筆頭株主として経営陣を監視するのである。いわゆる「ものを言う株主」だ。これは日々の経営や人事に口を出すのではなく、株主の利益を守る経営を要求するということである。後述する彼のソロモン株買収劇は、この「ものを言う株主」の一面を見せた例だ。

※1…… ロベルト・ゴイズエタ。キューバ難民としてアメリカに亡命した化学者。経済的付加価値(EVA)を経営に取り入れ、「コカ・コーラ社」の抜本改革を推進し、GEのウェルチに並ぶ「富創造のチャンピオン」と呼ばれたCEO。1997年没
※2…… バフェットが少年時代に祖父の店から仕入れたコカ・コーラを転売し、最初の事業資金を作ったというエピソードは有名。
ウォールストリートに接しない投資家
IT株や金融株に手を出さないバフェットは、ウォールストリート(金融街)との接点をほとんど持たない珍しい投資家でもある。短期利益を追わず、不確定な利益も好まない投資法は、彼を「メインストリート(庶民街)の投資家」とも呼ばせる。

そんなバフェットが金融界の王者、「ソロモン社」の危機を救った。1987年に「ソロモン社」の証券子会社、「ソロモン・ブラザーズ」が国債取引に関する不祥事によって、一気に信頼を失墜した時のことである。当時のバフェットは、「コカ・コーラ社」や「ディズニー社」の筆頭株主である「バークシャー・ハザウェイ社」のトップリーダーとして金融業界のトップたちから一目置かれる存在となっていた。「ソロモン社」はスキャンダル以降、株価が低迷し、市場からの資金繰りがつかず、経営破たんの危機のうえ、他社からの買収の危機を同時に抱えていた。そこで、当時の「ソロモン社」CEOであったグッドフレンドがバフェットに同社株の取得を要請したのである。

バフェットは過去にグッドフレンドに対し借りがあったこともあり、筆頭株主となって取締役会で旧経営陣を一掃、一時はCEOに就任して「ソロモン社」を再生させた。しかし、実質的な経営は「ソロモン・ブラザーズ」の新COOに就任したモーンに任せ、自らは相談役として協力する姿勢に徹した。

投資家としても、一企業のマネージャーとしても利益を出し続けている稀な存在のバフェット。もちろん中には「マクドナルド社」への投資の時ように、額面でこそ損を出していないが、運用成績としては失敗したものもあった。だが、失敗もパートナーたちに年次報告書として正直に申告していた。この株主に対する経営者としての正直さも、バフェットは企業に要求している。

現在、「バークシャー・ハザウェイ社」は、パートナーたちに非常に高いコストパフォーマンスで利益を出し続けている。そしてバフェットは、業界からも一目置かれる存在として、今も人々に「最強の投資家」と呼ばれているのだ。

数々のウィットに富むバフェットの言葉があるが、彼の投資哲学を象徴するものを引用しよう。「株式投資の極意とは、いい銘柄を見つけて、いいタイミングで買い、いい会社である限りそれを持ち続けること。これに尽きます」(1990年、『フォーブス』より)。
参考文献/
『最強の投資家 バフェット』(牧野洋著、日本経済新聞社、2005年)
『バフェットの投資原則:世界No.1投資家は何を考え、いかに行動してきたか』(ジャネット・ロウ著、平野誠一訳、ダイヤモンド社、2005年)
『バフェット投資の真髄』(ロバート・G.ハグス著、三原淳雄・小野一郎訳、ダイヤモンド社、2001年)
『賢人たちの投資モデル:ウォール街の伝説から学べ』(ニッキー・ロス著、木村規子訳、パンローリング、2001年)
ほか
略歴 PROFILE
ウォーレン・バフェット Warren Buffett
(1930-)
アメリカ、ネブラスカ州生まれの投資家。バークシャー・ハザウェイ投資会社CEO。幼年時代から数字や株式に興味を持ち、父が興した小さな証券会社に出入りしていた。中高校時代はワシントンDCで過ごし、コロンビア大学ビジネススクールで彼の投資哲学の礎、ベンジャミン・グレアム教授と出会う。1956年にオマハへ帰り、自らの投資会社を設立。1969年繊維会社バークシャー・ハザウェイの経営権を握り、1985年には同社を投資会社へと変ぼうさせ現在に至る。
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