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伝説の勝負師たち

【Vol.12】フィリップ・フィッシャー

「グロース投資」とは、徹底的な分析によって将来性のある企業を見出し、その株に長期投資することだ。その創始者であるフィリップ・フィッシャーは、かの高名な投資家ウォーレン・バフェットにも大きな影響を与えたと言われている。彼が当時零細企業に過ぎなかったモトローラ社の株を購入、超優良企業になった後も売却することなく、生涯保有し続けた話は有名な伝説となっている。一度購入した株に対して自身の編み出した基準に反しなれば保有し続ける─フィッシャーの投資哲学が浮き彫りにされているその基準とは、何なのだろうか。
優秀な学生から投資コンサルタントへ
フィリップ・アーサー・フィッシャーは、1907年9月8日にアメリカで生まれた。少年時代から優秀な頭脳を持ち、飛び級するなど学校の成績は抜群だった。15歳で大学進学。スタンフォード大学大学院ビジネススクールを修了し、卒業後は1928年に証券会社入社、新進気鋭のアナリストとなる。1929年の株式市場大暴落に遭遇するが、その経験が研究心をさらに高めた。

就職から3年後の1931年に独立し、投資顧問会社“Fisher&Co.”を設立。コンサルタントをしながら、独自の投資理論を打ち立てるべく研究に没頭した。この頃の投資では暴落で割安となった食品機械製造のフードマシナリー社株を購入。数年後に市場が落ち着いた時、株価は購入額の約50倍となり、彼の事業も軌道に乗った。
ニューヨーク証券取引所では、今でも多くの投資家がフィッシャーの手法を支持している ※イメージ

1939年に第二次世界大戦が始まると、フィッシャーはアメリカ陸軍空軍部に所属。が、そこでも軍務の空き時間を利用し、独自の投資原理を研究し続けた。終戦後はすぐにビジネスに戻り、彼が編み出した投資原理に基づく投資顧問活動を開始する。この時の彼の行動で注目すべき点は、投資原理を厳密に適用するため顧客を最大12名までに限定したこと。これが信頼度を高め投資顧問業務は大成功し、フィッシャーの名声も高まった。現在、投資家として確固たる地位を築いているウォーレン・バフェットもフィッシャーの投資原理を信奉している。「カトリック教会に通うように株を買え(離婚を禁止しているカトリックになぞらえ、一度買った株は手離すな、という意味)」 。このバフェットの言葉は、まさにフィッシャーの考え方そのものだ。

こうして投資家として地歩を築いたフィッシャーは、1958年、「フィッシャーの超成長株投資(Common Stocks and Uncommon Profits and Other Writings) 」を著す。ここには彼の投資哲学が、多角的に披瀝されている。中でも投資家にとって最も実践に役立つのは、彼が投資先を選定する際に検討する15ポイントである。ここでは主要な項目のみご紹介しておこう。

  • その企業は少なくとも数年間は売上と利益を増加させられる、製品またはサービスを持っているか
  • その企業は現在の主力商品が陳腐化する前に今後も業績を伸ばしていけるよう、新製品や新製法を
    開発する意欲があるか
  • その企業の営業部門は平均以上の営業力を持っているか

このように具体的な検討項目を羅列し、最後は株主に対する使命感と責任感を持つ誠実な経営者こそ投資対象とすべきだとし、 「その企業の経営者は誠実な人物か」で締めくくられている。
売らないフィッシャーが売るタイミング
フィッシャーの投資手法は前述の著書にある、15ポイントの検討項目を判断基準として企業を観察し、株を購入するものだ。そうして保有した株は、原則として売らない。10年、20年を視野に長期保有するのである。なぜなら景気の波や、設備投資で利益が減少したなどの理由で一時的に株価が下がったとしても、フィッシャーの15ポイントをクリアした企業は信頼できる経営者のもとで将来に向けて着実に事業を進め、成長するはずだからである。

では、フィッシャーが株を売るときとはどんな時なのか。彼が株を売るには3つの理由しかない。
  1. (1) 株を買うときに判断を誤った場合
  2. (2) 状況が変化し15ポイントの条件を満たさなくなった場合
  3. (3) 現在保有している株よりさらに有望な株に乗り換える場合

フィッシャーのグロース投資の原理が「安定して成長する企業の株に投資する」ことである以上、この売却理由は理にかなったものといえよう。条件を満たさなくなった株は売る。しかしその時「感情面で自己抑制が必要」と彼は言う。投資家は(1)のような時、自分自身に正直になれるかどうかが問われるのだ。
豊かな資産に守られて96歳の長寿を全う
フィッシャーは2004年3月11日に96歳で天寿を全うする。その時も多くの株を保有しており、49年前に買ったモトローラ社の株も莫大な含み益とともに残されていたという。そうした有言実行の姿勢こそ、「最も成功した投資家」として現在まで多くの投資家に信奉されている所以ではないだろうか。

彼は著書の中で言っている。「もっとも危険に見える安全な道は、すなわち投資を続けることである」と。

最後にもう一つ、フィッシャーの有名な言葉を挙げておこう。それは「悪い人との良い契約などありえない」というものだ。つまり最後に重要なのは、やはり「人間性」。投資活動だけでなく、人生全般に通用する至言である。
参考文献/
『フィッシャーの「超」成長株投資』(フィリップ・A・フィッシャー著 フォレスト出版刊)
『現代外国人名録2004』(日外アソシエーツ刊)
『Forbes.com フィッシャー逝去』(息子ケネス・フィッシャーによる記事)
略歴 PROFILE
フィリップ・アーサー・フィッシャー  (1907-2004)
20世紀アメリカが生んだ最も成功した投資家と呼ばれる。スタンフォード大学・大学院ビジネススクールを卒業後、証券会社でアナリストを経験。その後、若くして投資顧問会社を設立。優秀な頭脳と旺盛な研究心で独自の投資原理を構築した。徹底した調査と分析により、将来安定して成長するであろう企業を見つけ、その株に長期投資する手法は「グロース投資」と呼ばれ、現在も有効に使われている投資手法である。フィッシャーは96歳で亡くなるが、その遺伝子を継いだ子や孫も「投資家」として活躍している。
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