| 企業危機を救う仲介のプロフェッショナル |
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2001年、あの9.11の悲劇から1週間ほどたったある日、『ウォール・ストリート・ジャーナル』と『ニューヨーク・タイムズ』2紙に全面広告が掲載された。その中に次のような文章があった。−「この度の悲劇で被害を受けたテナント、ビルオーナー、不動産ブローカーの救済のためにボランティアで援助をします」。被災した世界貿易センターや世界金融センターなどに多くのクライアントを持つ、ケネス・D・ローブ&Co.のアナウンスであった。ローブは、テロ攻撃の被害にあったテナントや企業に対し、無料で移転先の斡旋やコンサルタント業務を行った。ニューヨークの不動産業が打撃を受けない策を真っ先に講じたのである。
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1950年代、ローブは大学卒業後に建築会社へ就職、23歳でニューヨークの不動産仲介企業に転職した。当時は、手当りしだいにオフィスビルへ飛び込み、各社のオフィス賃貸の責任者をつかまえては、賃貸契約の終了時期や必要なオフィス面積、将来の計画などを聞き出す日々。人員整理をしてオフィスのスペースが余ると聞けば、余剰スペースの転貸の手伝いを申し出ていた。その後、不動産業を総合的に学ぶため、ティッシュマン・リアルティ&コンストラクション社に転職。やがて、同社が賃貸仲介とコンサルティングサービス専門の子会社をつくり、ローブもそのスタッフとなった。
ティッシュマン社時代のローブのクライアントで、インターパブリックという広告関係のコングロマリット※があった。同社は経営状態が思わしくなかったが、ローブは同社所有の複雑を極めた賃貸オフィスの状況を整理すれば、かなりの節約ができるとの見通しを立てた。そして、5年間に30以上の契約を新たにまとめ、解除を行い、オフィス統合や転貸で、1,000万ドル以上の利益を同社にもたらした。もちろん、ローブも大きな利益を得ている。
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1969年、ローブは独立の道を歩み出した。1970年代初頭のアメリカは深刻なインフレの到来で、オフィスビルを維持できないオーナーや借りていたスペースの縮小を余儀なくされた企業が増加している。そんななか、IBMもローブにテナントとして早くからアプローチしていた。IBMはローブに仲介ではなく、同社の移転先候補リサーチを依頼。だがこの仕事のおかげで、マンハッタン中の大手企業向きオフィス市場の情勢をほぼ完璧に把握することになった。調査したオフィス物件の賃貸面積、階数、契約切れの時期などをすべてデータファイルに収め、大手企業の重役とかわした日常会話から得た情報もそこに盛り込んだ。これをもとに、ローブはテナントに空きスペースができるとテナントの利益確保もできる「転貸」を提案し、この分野で業界随一の実績を挙げることとなったのである。
1970年代半ばには、クライスラー・ビルの所有者で不動産業界の帝王、ソル・ゴールドマンが支払い不能に陥った。このビルは長期融資の引受先であるマサチューセッツ・ミューチュアル保険に差し押さえられ、ミューチュアル社は3,000万ドルを投じてビルを改修する計画を立てた。その一方で、土地の所有者、クーパー・ユニオンにビルの権益の70%を配分するかわりに地代を安くするよう求めた。この交渉役として、ローブはミューチュアル社に雇われている。その後、クライスラー・ビルは競売にかけられることもなく、クーパー・ユニオンも破綻をまぬがれた。これもローブの手腕によるものであった。
ローブはテナント側の代理人としても数々の交渉にあたり、倒産の窮地を救ったが、オーナーの代理人としてもその能力を発揮している。ワン・プラザ・ニューヨークを巡るエピソードはその一例だ。このビルは、1960年代後半に大立者のソル・アトラスが開発したダウンタウンの複合オフィスだった。建設は景気のよさを見越して、通常行う長期融資の準備もせずに、短期建設資金融資のみを手当したまま進行させていた。しかし、同ビルの損益分岐点まであとわずかというところまでテナントが埋まったころから景気後退が始まる。そのため、融資先のチェース・マンハッタン銀行が、短期融資の返済を迫ってきたのだ。この状況を切り抜けるには、大口のテナントを入居させてビルを黒字化させ、長期融資を受けるしかなかった。
そこで、アトラスはローブを頼ってきたのである。ローブは、5階のスペースにチェース・マンハッタン銀行がオプションを持っていることを知り、そのオプションを行使しないことをはじめとするテナント入居のための12の条件をチェース側に申し入れる。このうち4条件をチェースが受諾。さらに、投資銀行ファースト・ボストンが移転先を探しているのを調べあげ、20年の賃貸契約を結ばせた。これにより、ビルは黒字化し、ローブは長期抵当融資の交渉を低金利で進めることが可能となったのである。
しかし、問題がまた持ち上がる。ファースト・ボストンの重役陣から契約を撤回したいと申し入れがあったのだ。だが、撤回すれば同社も損失は免れない事態だったこともあり、ローブはファースト・ボストン側に転貸で利益を得ることを提案した。 その結果、ファースト・ボストンの重役陣は、ローブの手腕を信頼し、ワールド・トレード・センターへのバック・オフィス移転の仲介もローブに依頼してきたのである。
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| ※コングロマリット [conglomerate] …業種・業務面で関係をもたない企業間の合併を通じて成長した複合企業体。複合企業。 |
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