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不動産王列伝

【Vol.7】 タイの不動産分野で成功を収めたインド系財閥の創始者 スラー・チャンスリチャウラ

東アジア、東南アジアの経済は、ほとんどが欧米資本やいわゆる華僑財閥によって牛耳られている。特に、東南アジアでも唯一植民地とならなかったタイ王国の主要ビジネスは、華僑勢力が強い。その中にあって、アジア系移民のもう一つの主流、インド移民たちのパワーが少しずつ台頭の兆しを見せている。
インド系移民としては珍しい、金融・不動産分野への参入
シーロム通りの西端、チャオプラヤー川寄りに建つ「ホリデイ・イン・シーロム・バンコク<HOLIDAY INN SILOM BANGKOK>」
シーロム通りの西端、チャオプラヤー川寄りに建つ「ホリデイ・イン・シーロム・バンコク<HOLIDAY INN SILOM BANGKOK>」
日本人にとっては、タイで活躍する企業家といって思い浮かぶ人物はあまりいないかもしれない。しかし、首都バンコクで、宝石店やエンターテインメント施設がひしめくシーロム・ロードに面した「ホリデイ・イン・シーロム・バンコク(旧クラウン・プラザ・ホテル、1990年創業)」なら耳にしたことがあるのではないだろうか。このホテルを運営するのが、インド系移民のスラー・チャンスリチャウラと、その兄弟が率いるサイアム・ウィタヤー・グループの不動産部門H・R・Hホールディングス社である。

1800年代後半、イギリスの植民地化を逃れるため、多くのインド人がアジア各国へと移っていった。移住先ではプランテーション事業を行なったり、体格の良さから移住先で警備関係の仕事に従事したりする人たちが多かったが、タイに移住した人々に限っては伝統的な織物や繊維を扱う商人の割合の方が高かった。そしてこのスラー・チャンスリチャウラも、タイに単身で渡った布地商人の一人だったのである。

現在、タイのインド系企業群は主にバンコクを拠点に固まっている。正確な数は定かではないが、インド・タイ商工会議所に参加している企業のみで151社。それぞれ繊維品輸出入業、宝石輸入販売、サービス業(金融・不動産含む)の3分野に大別される(1994年現在)。


そのうち約64%が繊維品輸出入業者で、サービス業は約19%に過ぎない。さらに、不動産業や金融業に関してはほとんど見当たらないというのが実情である。理由の一つに、金融に長けた華僑の大型資本が古くからそのマーケットを抑えてきたことが上げられる。バックボーンをもたないインド系企業家には新規参入の難しい市場だったこともあり、インド人スラーの成功は、当地でも注目度の高いものだった。
ビジネス成功の影に宗教あり
スラーは繊維取引で稼いだ資産を不動産事業に回していった。主にアパートやゲストハウスの賃貸、売買へと事業を拡大。また、スラーの甥が代表を務めるユニコ・グループのゴルフ場開発・経営をはじめとする不動産企業群も、スラー率いるサイアム・ウィタヤー・グループの関連である。

同グループは、レーム・トン銀行、ミドンド・マーチャント・ファイナンス、タイ・プラシット・インシュアランスといった金融企業の経営にもあたっているが、 特にレーム・トン銀行(1984年から約10年がかりで買収。タイ初のインド人経営の商業銀行)については、前出のH・R・Hホールディングス社と提携を結んでいる香港インド系企業としての役割も大きいという。

日本人にはわかりにくいかと思うが、インド系企業のバックボーンの一つに、その企業創始者の宗教宗派が大きく関わっている。同じ宗派の企業家たちがそれぞれ連携してビジネスを成功させているという。これは、華僑の企業家とはまた違ったケースだ。

華僑企業家は家族を重視し、出身地や民族にこだわって財閥形成する傾向にある。ビジネスパートナーを同じ出身地で固めることも珍しくない。一方、インド系企業は出身地や国籍でなく、同じ宗派に属する者同士がビジネスパートナーとして、互いにビジネスチャンスを切り開くケースが多く見られるという。

スラーも例外ではない。タイにあるインド系10大宗教団体のうちの一つ、「ナームダーリー・シク」(シーク教の一派)に属している。この団体からはインド系には珍しく、金融や流通分野などサービス業の有力企業家たちが多く輩出されている。スラーの協力者である香港のインド系企業家もまた、ナームダーリー・シクの出身者だ。

同じ宗派に所属し、かつ、お互いにビジネスメリットを享受できるパートナーと連携すること。これがアジアでのインド系企業の成功要因の一つともいえるようだ。

参考文献/
佐藤宏『タイのインド人社会:東南アジアとインドの出会い』(アジア経済研究所、1995年)
朱炎著『徹底検証 アジア人華人企業グループの実力』(ダイヤモンド社、2000年)

The Bangkok Post  http://www.bangkokpost.net
The Nation http://www.nationmultimedia.com
略歴 PROFILE
スラー・チャンスリチャウラ
インド出身。サイアム・ウィタヤー・グループの代表。布地商人から身を興し、3人の兄弟とともに財を築いた。1994年には出身地インドにも金融の足場を作ろうと、シリア派キリスト教徒所有の銀行買収の動きも見せている。
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